タイの個人所得税ガイド

最終更新日: 2025年11月1日

目次

  1. 課税所得の定義(国税法典第40条)
  2. 主な控除項目
  3. 非課税となる収入(国税法典第42条)
  4. 個人所得税の税率(累進課税)
    1. 【計算例】年間所得総額が1,000,000バーツの場合
    2. 【計算例】年間所得総額が2,000,000バーツの場合
  5. 税務申告(Personal Income Tax Return)

個人所得税の仕組みを理解する~日本より高い税率負担

タイでの個人所得税は日本より安いはず、というのは誤解です。タイで働く外国人にとって、所得控除や税率等の個人所得税の仕組みを理解することは、正確な納税と適法な滞在のために不可欠です。

1.課税所得の定義(国税法典第40条)

課税対象となる「所得(เงินได้พึงประเมิน)」には、金銭・物品・その他の便益として受け取ったものが含まれます。

所得区分主な項目
(1) 雇用所得 給与・賃金・ボーナス・退職金・家賃手当・雇用者負担の債務・その他の雇用上の便益
(2) 職務・請負所得 手数料・仲介料・会議手当・請負ボーナス等、職務に起因するすべての所得

Tax on Tax(税金の上に税金):会社が従業員の個人所得税を肩代わりして支払う場合、その税額は「従業員への追加所得」とみなされて再度課税されます(国税庁通達 ป.96/2543)。すなわち、会社が負担した税金=従業員の所得扱い → その分にも再課税となり、更にその増加した課税部分の負担を本人所得として計算を行い(これを繰り返す)、最終的な納税額を計算します。

2.主な控除項目

日本では基礎控除や扶養控除・給与所得控除など色々な控除があり控除枠もタイに比べると金額が多いです。タイでは、納税者本人・家族・特定支出に対して下記の控除制度(Personal Allowances)で運用されています。

控除項目控除額(バーツ)適用条件
基礎控除(本人)60,000納税者本人
配偶者控除60,000配偶者に所得がない場合
扶養控除(子)30,000 / 1名子どもの人数制限なし
父母扶養控除30,000 / 1名60歳以上かつ低所得の父母
経費控除(給与所得)所得の40%(上限60,000)第40条(1)の雇用所得に適用
生命保険料控除上限100,00010年以上契約の生命保険
住宅ローン利子控除上限100,000タイ国内の住宅ローン
社会保険控除実額(上限9,000目安)従業員負担分
積立基金拠出金控除上限10,000プロビデント・ファンド等

時限的減税策‐ショッピング減税:政府公示の指定期間に発行されたE-Tax Invoice / E-Receiptに基づく購入について、最大50,000バーツのショッピング減税等があります。

3.非課税となる収入(国税法典第42条)

以下の所得は、個人所得税の計算から除外されます。

非課税項目概要
業務上の経費*職務遂行に不可欠で実費弁償的に支払われた日当・交通費(定額手当を除く)
銀行利息年間10,000バーツ以下の国内銀行の預金利息
保険金・賠償金損害保険金、不法行為による賠償金、葬儀費用など
相続・贈与相続・伝統儀礼・慈善目的の贈与による所得
社会保険給付金社会保険基金から支給される給付金
学術・研究報奨金学術的発見・研究に対する報奨金、政府宝くじの当選金など

*出張手当と業務上の経費

タイの出張手当については、宿泊費・交通費・食費など領収書に基づく実費精算分(=業務経費)を除いたものを指し、原則として課税対象の所得となります。

ただし、以下の財務省が定める公務員の日当基準に基づき、所得税の計算では非課税部分があります。
(国税局命令59/2538 および 国税法典 第40条・第42条(1))

出張先 職位 非課税上限(日額)
タイ国内(他県) 一般社員 240バーツ
タイ国内(他県) マネージャー以上 270バーツ
タイ国外 一般社員 2,100バーツ
タイ国外 マネージャー以上 3,100バーツ

4.個人所得税の税率(累進課税)

タイの個人所得税は、課税所得額に応じて税率が上がる累進課税制度です。

課税所得(バーツ)税率区分
0 ~ 150,000免税税負担なし
150,001 ~ 300,0005%タイローカルに多いゾーン(月給3万バーツまでは非課税)
300,001 ~ 500,00010%
500,001 ~ 750,00015%
750,001 ~ 1,000,00020%
1,000,001 ~ 2,000,00025%
2,000,001 ~ 5,000,00030%
5,000,001 以上35%最高税率

【計算例】年間所得総額が 1,000,000 バーツの場合

給与所得の控除(雇用所得・第40条(1)):
・基礎控除 60,000 + 経費控除 40%(上限60,000)→ 経費控除は上限により 60,000
→ 控除合計 = 120,000
課税所得 = 1,000,000 − 120,000 = 880,000

階層別計算算式税額
0~150,000免税0
150,001~300,000(300,000−150,000)×5%7,500
300,001~500,000(500,000−300,000)×10%20,000
500,001~750,000(750,000−500,000)×15%37,500
750,001~880,000(880,000−750,000)×20%26,000
年間税額合計91,000

実効税率:約9.1%/月額納税目安:約7,600バーツ

【計算例】年間所得総額が 2,000,000 バーツの場合

給与所得の控除(雇用所得・第40条(1)):
・基礎控除 60,000 + 経費控除 40%(上限60,000)→ 経費控除は上限により 60,000
→ 控除合計 = 120,000
課税所得 = 2,000,000 − 120,000 = 1,880,000

階層別計算算式税額
0~150,000免税0
150,001~300,000(300,000−150,000)×5%7,500
300,001~500,000(500,000−300,000)×10%20,000
500,001~750,000(750,000−500,000)×15%37,500
750,001~1,000,000(1,000,000−750,000)×20%50,000
1,000,001~1,880,000(1,880,000−1,000,000)×25%220,000
年間税額合計335,000

実効税率:約16.75%/月額納税目安:約27,900バーツ

企業は通常、年間見込み額に基づき、毎月の給与から源泉徴収(PND1)を行い、従業員に代わって納付します。

税務申告(Personal Income Tax Return)

タイでは、個人所得税の年次申告を翌年 3月31日までに 行う必要があります。前年(1月〜12月)の所得を基準として申告し、給与所得のみの場合と複数所得(給与+事業所得など)がある場合で使用する申告書が異なります。

Form 名称 概要 申告期限
PND.91
ภ.ง.ด.91
Personal Income Tax
(Employment)
給与所得のみの場合に提出する年次の個人所得税申告書。 翌年3月31日
まで
PND.90
ภ.ง.ด.90
Personal Income Tax
(Mixed Income)
給与以外に複数の所得(事業・不動産・利子・配当など)がある場合に提出する年次の個人所得税申告書。 翌年3月31日
まで

※オンライン申告(e-Filing)を利用する場合は、通常4月8日頃まで期限が延長されます。


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