タイ労働者保護法に関するよくある質問と回答
最終更新日: 2025年10月7日
タイ労働者保護法(Labour Protection Act)に基づくQ&A
休暇制度について
- タイ独自の休暇にはどのようなものがありますか?
- 主な法定・慣行の休暇は次のとおりです。
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- 年次有給休暇:勤務1年経過後、最低6日以上付与。
- 病気休暇:年間30日まで有給で取得可(3日連続する場合、健康診断書の提出を求め得る)。
- 個人・用務休暇(Personal Business Leave):年間3日まで有給。
- 兵役休暇:徴兵検査・訓練等に伴う休暇。
- 出家休暇:慣例的に認められるが法定義務ではなく会社裁量。
残業(時間外労働)について
- タイでの残業時間の定義は何ですか?
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原則として1日8時間・週48時間を超える労働が時間外労働です。ホテル・病院・運輸等の一部業種では、週48時間の範囲内で日8時間を超え得る特例があります(省令)。
- 残業させる前の手続きは必要ですか?
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必要です。労働者の事前同意を得ること。就業規則で包括同意を定め、実務では指示時に同意(書面/口頭)を確認します。ただし、ホテル、劇場、運輸、飲食店、カフェ、クラブ、教会、病院では、例外となっており、使用者は労働者を休日労働させることができます。(24条)。
- 深夜残業の割増しはありますか?
- 日本のような「深夜割増」はありません。割増賃金は次のとおりです。
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- 通常日の残業:通常賃金の1.5倍
- 休日勤務:通常賃金の2倍
- 休日の残業:通常賃金の3倍
- 日本のように固定的な残業代を毎月支給できますか?
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実労働時間と切り離した固定残業代は認められない判断が多いです。固定手当を設けても実残業分は別途精算が無難です。
- 管理職は残業代をもらえますか?
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採用・解雇・懲戒・評価等に実質的権限を持つ者のみを管理監督者と扱います。名ばかり管理職は対象になります。
- 長時間の残業の場合、休憩は必要ですか?
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2時間以上の時間外労働の前に20分以上の休憩が必要です(省令)。
賃金の定義と計算基準について
- 残業代計算の基準となる「賃金」には何を含めますか?
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基本給および固定的に支給される手当(役職手当・食事手当等)を基礎に計算します。実費弁償や変動給は通常含めません。
- 賃金と見なされない手当はありますか?
- 通常、次は「賃金」に含みません。
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- 実費弁償(交通費・出張費など)
- 成績連動型ボーナス
- 皆勤手当・報奨金(裁量的奨励金)
- 家賃補助(福利厚生扱い)
給与からの控除やペナルティについて
- 欠勤・遅刻を理由に給与を控除できますか?
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原則 No Work, No Pay。未就労時間分は不支給可。ただし就業規則等での明確化が必要。罰金的控除や恣意的減額は違法となり得ます。
- 給料の支払いが遅れた場合のペナルティは?
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法定期日までに賃金や残業代を支払わない場合、遅延期間に応じ最大年率15%の利息支払い義務が生じます。
- 減給処分の上限はありますか?
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懲戒としての減給は月額賃金の10%以内、かつ3か月を超えて継続しないのが原則。超えると不当懲戒のおそれ。
- 従業員から保証金を預かったり、保証人を要求できますか?
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原則として保証金の徴収は禁止。会計・出納等の職務で所定の許可がある場合のみ例外設定可。
就業規則・契約に関する注意点
- 就業規則の変更に合意しない社員がいた場合、どうなりますか?
- 会社が就業規則を変更する場合、従業員への周知・労働保護官への届出が必要です。 不利益変更は同意がない限り適用不可で、同意しない社員には従前規則が適用される場合があります。
- 退職後の同業種への転職禁止を契約で縛れますか?
- 競業避止条項は、期間・地域・対象業務が合理的範囲であれば有効とされ得ます。 広範すぎる制限は不公正契約として無効となる可能性が高いため、 秘密保持契約(NDA)やノウハウ使用制限等での保護が実務的です。
解雇と補償金について
- 従業員を解雇する際、いつまでに通知する必要がありますか?
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期間の定めのない雇用契約の場合、原則として「1給与期間以上前」に通知する義務があります(労働者保護法第17条)。実務上は「告知後、次の給料日を1回挟んで解雇が成立する」と解釈されることが多いです。
即時解雇とする場合は、事前通知に相当する賃金(予告手当)を、解雇補償金とは別に支払う必要があります。
- 解雇補償金を支払わなくてもよい「懲戒解雇」の条件は?
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はい。以下の懲戒解雇事由(労働者保護法第119条)に該当する場合は、解雇補償金の支払いが免除されます。
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- 職務上の不正行為を行った場合
- 使用者に対して故意の刑事犯罪を犯した場合
- 故意または重大な過失により使用者に損害を与えた場合
- 就業規則または正当な命令に違反し、文書による警告を受けた場合(重大な違反の場合は警告不要)
- 正当な理由なく3日間連続して職務を放棄した場合(休日を含む)
- 最終判決により懲役刑を受けた場合
- 就業規則に対する重大な違反で「懲戒解雇」の条件は?
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以下3つの条件が満たされていることが必要です(第119条)。
(1) 就業規則に対する重大な違反があったこと(軽微な違反では不可)
(2) 口頭・文書による警告があり(事実と理由を明記)、更正の機会が与えられたこと
(3) 少なくとも2回以上警告書を発行した記録があること
これらが欠けている場合、労働裁判では会社側が不利となります。
- 警告書(หนังสือตักเตือน)の記載条件は?
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定型はありませんが、記載内容は次のとおりです。
(1) 発行場所
(2) 発行日
(3) 労働者名、労働行為の事実(年月日・時間・場所・状況、違反内容)
(4) 署名(使用者)
(5) 署名(従業員)
*従業員が就業規則の違反を認めずサインをしなかった場合は、15日間社内掲示し、貼りだした日付入り写真を証拠として保管する等で、警告を周知させておく必要があります。
- 解雇補償金は勤続年数によっていくら支払う必要がありますか?
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最終賃金を基礎として、以下の通り支給されます(第118条)。
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| 勤続期間 |
支給額(最終賃金ベース) |
| 120日未満 | 支給不要 |
| 120日以上1年未満 | 30日分 |
| 1年以上3年未満 | 90日分 |
| 3年以上6年未満 | 180日分 |
| 6年以上10年未満 | 240日分 |
| 10年以上20年未満 | 300日分 |
| 20年以上 | 400日分 |
- 「1年ごとの有期契約」を繰り返して雇用している場合はどうなりますか?
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同一業務で2年以上継続している場合、裁判所は「継続的雇用関係」とみなし、補償金の支払いを命じることがあります。形式的な更新ではなく、実態が重視されます。
- 有期雇用契約の場合は、解雇補償金を支払う必要がありますか?
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有期雇用であっても、以下の3つの条件を満たす場合のみ、契約終了時に補償金不要となります。
・2年以内に完了する特別プロジェクトであること
・通常の事業とは異なる一時的な業務であること
・季節的要因による業務であること
これらに該当しない「恒常業務」の場合は、有期契約でも実質的に無期雇用とみなされ、解雇補償金が必要です。
会社都合による特別な解雇(整理解雇・事業所移転)
- 事業所を移転する場合のルールを教えてください。
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会社が事業所を移転する場合、以下の義務があります(第122条)。
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- 事前通告義務:30日以上前に労働者へ通知する必要があります。
- 特別解雇手当:移転後の勤務地での就労を希望しない労働者には、特別解雇手当を支払う義務があります。
- 業務縮小や機械導入による「整理解雇」(リストラ)の場合、特別な手続きが必要ですか?
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はい。通常の解雇とは異なり、厳格な手続きと補償が必要です(第121条)。
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- 事前告知・届出義務:60日以上前に労働者へ解雇理由と解雇日を通知し、同時に労働監督官へ届出を行います。配置転換や他職種での継続雇用の機会を検討しなかった場合は、不当解雇と判断されることがあります。
雇用主には、雇用継続への配慮義務が求められます。
- ペナルティ:事前告知を行わない場合、賃金60日分の予告手当を支払う義務があります。
- 通常の解雇補償金:上記Q3の基準に基づく補償金は必ず支払わなければなりません。
- 特別加算:勤続6年以上の労働者には、通常の解雇補償金に加え、勤続1年あたり15日分以上の「特別解雇補償金」を上乗せする必要があります。
- 不当解雇リスク:解雇対象の選定が合理的・客観的でない場合、不当解雇として訴えられ、会社が敗訴する可能性があります。
解雇が禁止されている事由とその他の規定
- 法的に解雇が禁止されている労働者や状況はありますか?
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はい。以下の理由による解雇は法律で禁止されており、解雇は無効とされ、原職復帰または損害賠償の対象となります。
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- 妊娠、兵役、病気休暇などを理由とする解雇
- 労働組合員または労働運動を理由とする解雇。*労働者委員会(労使協議会)の委員は、労働裁判所の許可なしに懲戒または解雇できません。
- 政府機関への申告を理由とする報復解雇(whistleblower)
- 解雇時に未消化の有給休暇はどうなりますか?
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会社は、労働者の未消化の年次有給休暇を買い取る義務があります。
- 解雇補償金に税金はかかりますか?
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解雇補償金は給与所得とは区別され、30万バーツまでが非課税となります(タイ歳入法による規定)。
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