タイ法人税申告の特徴:日本との制度比較で見る実務の違い

最終更新日: 2025年11月1日

目次

  1. タイ税務制度の特徴(日本との相違点)
  2. 法人税の申告と納税フロー(12月決算の例)
    1. 中間申告(PND.51)
    2. 決算申告(PND.50)
  3. 法人税率・欠損金繰越・還付の要点
  4. 経費(損金算入)の制限と実務対応
  5. 減価償却制度の相違

タイの年次税務:日本との制度比較で見る実務の違い

タイの税務制度は日本と制度枠組みが類似している一方、法令の適用・運用は厳格で、違反ペナルティも実効的に運用されています。特に、経費の損金算入要件中間申告(PND.51)の過少申告罰は、日本の慣行と大きく異なるため、慎重な対応が必要です。

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タイの法人税申告と納税フロー(12月31日決算の事例)

タイの法人税申告・納税制度は、日本と異なり「年間予想利益」に基づく中間申告(PND.51)と、 「監査済財務諸表」が必須となる決算申告(PND.50)の二段階で構成されています。 12月31日決算の場合の具体的なフローと注意点は以下の通りです。

1. 中間申告(PND.51):予想利益ベースの予定納税

中間申告は、日本の「上半期実績」に基づく方法とは異なり、 その事業年度の「年間予想利益の50%」相当額を基準として予定納税を行う制度です。 年間の利益予測が難しい場合、過少申告を行うと罰則の対象となります。 中間申告時に計算した年間予想利益が、決算時の年間利益より25%以上下回っている場合は過少申告とみなされ、 税の延滞扱い+20%の罰金(ペナルティ)が課せられます。

  • 税務申告期限: 会計期間開始から6ヶ月経過時点から2ヶ月以内(8月末
  • 提出書類: 中間申告書(PND.51)
    ※予想利益の根拠となる収支計算書・財務諸表は不要。

2. 決算申告(PND.50):監査済財務諸表が必須(全法人対象)

決算申告は、外部監査済の財務諸表(タイ語)を税務署及び登記局に提出することが義務付けられています。主に金融商品取引法や会社法で監査が求められる場合に法定監査が必要となりますが、タイではすべての法人が対象となる点に注意です。

申告期限の延長制度はなく、延滞税・罰金の対象となるだけでなく、無申告や申告遅延の場合は就労ビザ/労働許可証(Work Permit)の更新もできません。

  • 定時株主総会(決算書類の承認決議)開催期限: 決算日から4ヶ月以内(翌年4月末)※定款規定あり
  • BOIへの事業報告書提出期限: 決算日から120日以内(翌年4月末)
  • 税務署への申告期限: 決算日から150日以内(翌年5月末)
  • 商務省への申告期限: 決算日から150日以内(翌年5月末)
  • 提出書類: 申告書(PND50、SorBorChor3)、監査済財務諸表、監査報告書、株主名簿、取締役宣誓書等

法人税率・欠損金繰越・還付の要点

法人税については、(会計上の利益 × 以下の法人税率)- 源泉徴収税額 - 中間納付税額 を納付する必要があります。法人税率は原則20%で、政策的な減税措置が多い日本に比べ、限定的です。よくある誤解として、タイはタックスヘイブン(租税回避地)のイメージがありますが、そうではありません。

項目 日本 タイ
法人税 標準税率23.2%。中小法人(資本金または出資金の額が1億円以下の普通法人)の場合、年800万円以下の所得に対し15% 年間30万バーツ以上を超える税務上の利益×税率20%。中小法人(資本金500万バーツ以上)の場合、30万1バーツ~300万バーツまでの利益は15%
欠損金繰越 原則10事業年度 最大5事業年度
還付請求 過納があれば還付申告可。中小企業等は欠損金の1年繰戻し還付が可能(要件あり) 還付は可能だが、審査・税務調査の対象となりやすい傾向。実務では翌期以降への税額控除(繰越)選択を推奨。

経費(損金算入)の制限と実務対応

交際費・旅費・車両関連費などの損金算入には明確な制限があります。タイで事業を行う際は、特に車両関連費の損金算入制限(購入100万THB、リース月額36,000THB)と、低過ぎる限度額の交際費旅費・日当の課税扱いに留意し、日本の感覚で経費処理を行わないよう注意が必要です。

項目 タイのルール 実務上の注意点
交際費 資本金または総収益の大きい方の0.3%(上限1,000万THB) 限度額に注目。証憑不備は即否認されるリスクが高いため、厳格な管理が求められる。
旅費・出張費 業務関連性が必須要件。公務員基準を超過した日当などの手当は、受け取る側で課税対象 日本で認められる「規程ベースの非課税」(出張旅費規程に基づく非課税扱い)は、タイでは原則として適用されない。
役員報酬 不相当に高額な部分は損金不算入(実質判定) 税務当局の裁量余地が大きいため、高額な報酬を設定する際は、その合理性を裏付ける準備が必要。
車両(購入) 10人乗り以下の乗用車は、取得価額100万THBまでの部分のみが損金算入の対象 日本は原則として減価償却で全額計上可
車両(リース) 月額36,000THBを超えるリース料部分は損金不算入 リース料の損金算入の上限額が厳しく設定されている
引当金・未払費用 債務が法的に確定していないものとして原則損金不算入 日本では、修繕引当金や賞与引当金など、一定の要件を満たせば認められる類型があるが、タイにはない

減価償却制度の相違

項目 日本 タイ
償却方法 定額法・定率法を選択可(資産区分による) 原則 定額法(年間償却限度額方式)
償却期間設定 資産ごとに耐用年数表あり(細分類多数) 歳入局告示による年間償却限度額(建物20年、機械・設備5年などシンプルな分類のみ)
即時償却・特別償却 中小企業投資促進税制などで可 原則なし。ただし、機械など中小企業特例で加速償却可
償却開始時期 事業の用に供した日(初年度は原則月割り) 稼働可能な状態になった時(取得年度の按分不要)
残存価額 原則1円(備忘価額)を最終年度に残す 原則1バーツ(100%償却は不可)
固定資産計上基準 1年以上使用、概ね10万円/20万円以上 1年を超えて使用できるもの全て(実務上1,000バーツ以上)
中古資産の扱い 取得時に再評価して耐用年数を再設定 新品・中古問わず定められた耐用年数を適用(短縮不可)
リース資産の取扱い ファイナンスリースは資産計上・償却対象 同様に資産計上。ただし3年以内の短期リースは費用処理可
建物の耐用年数例 鉄筋コンクリート建物:50年 同様建物:20年(年間償却限度額5%)
車両の耐用年数例 普通自動車:6年 一般車両:5年(年間償却限度額20%)、高級車(取得価額100万バーツ超)は損金算入不可

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