タイ国への進出/起業

失敗しないために外資規制(FBA)への理解が不可欠

最終更新日: 2025年11月1日

目次

  1. 不適切な法人登記 を避けるための注意点
  2. タイでの法人設立は「スモールスタート」とは異なる
  3. 名義借り(ノミニー)黙認の時代から厳格化の時代へ
  4. タイ株と外国人事業法に関するよくある質問

不適切な法人登記 を避けるための注意点

タイで事業を行う外国企業は、日本とは異なり、 外国人事業法(Foreign Business Act=FBA)に基づいた運営を行う必要があります。 事業形態の選択は、業種・資本構成・政府の奨励政策などを考慮して、慎重に判断することが求められます。

多くの業種では外国資本の出資制限があり、まずは自社の事業が禁止事業リストに該当しないかを確認することが重要です。 該当しない場合(多くは非製造業)、通常はタイ人パートナーとの合弁会社(Joint Venture)を設立します。 この場合、外国資本比率は49%以下に制限され、また外国人株主1人あたり最低200万バーツの投資が求められます。 加えて、外国人1名の就労にはタイ人4名以上の雇用が必要です。

さらに、会社設立後の業務ライセンス申請においては、業種によって追加条件が課されることがあります。 たとえば、タイ人株主の比率を引き上げる、または取締役の過半数をタイ人にするなどの要件です。 法律知識の乏しいが日本語話者だからと任せたタイ人や、外国法人設立に不慣れなローカル弁護士・会計士に依頼すると、 手続きが不適切になり、法人登記の再申請や修正を繰り返すケースも少なくありません。また、取引先や顧客ニーズに合わせて何でも業務対応するといったサービス精神が、タイではコンプライアンス違反となる可能性もあります。


タイにおける合弁会社のルール

一方で、外資規制の対象業種であっても、一定の条件を満たせば100%外国資本による進出が可能です。 投資委員会(BOI)または国際貿易事務局(TISO)の認可を受けた事業等は、外資規制の緩和や税制優遇を受けることができます。 特には「タイランド4.0」政策*の重点分野に該当する場合には、優遇が大きいです。
また、営業活動を行わず、市場調査や本社との連絡に限定する場合は駐在員事務所(Representative Office)の設置も可能であり、 非営利目的の拠点として運営することが認められています。

*「タイランド4.0(Thailand 4.0)」とは、タイ政府が2015年に掲げた国家経済発展戦略のひとつで、従来の「製造業中心」から脱却し、イノベーション主導型経済(Value-Based Economy)への転換を目指す政策。 「中所得国の罠(Middle Income Trap)」からの脱却、 技術革新・創造性を基盤とした経済構造への転換、地域格差の是正と持続可能な成長を目的とする。重点産業(S-Curve 産業)は以下の通り。

第1群(既存産業の高度化)

  1. 次世代自動車(Next Generation Automotive)
  2. スマート電子機器(Smart Electronics)
  3. 高付加価値観光(High-Value and Medical Tourism)
  4. 農業・バイオテクノロジー(Agriculture & Biotechnology)
  5. 食品加工(Food for the Future)

第2群(新規産業創出)

  1. ロボティクス(Automation & Robotics)
  2. 航空・物流(Aviation & Logistics)
  3. バイオ燃料・バイオ化学(Biofuels & Biochemicals)
  4. デジタル産業(Digital Industry)
  5. 医療・健康関連産業(Medical Hub)

タイでの法人設立は「スモールスタート」が通用しない

タイで法人を設立する際は、日本での起業と比べて多くの規制や要件を満たす必要があり、より綿密な準備が求められます。 日本で一般的に想定される「スモールスタート」のような軽い立ち上げ方とは、大きく異なります。

日本での法人設立との主な違い

タイでの法人設立や事業運営では、固定費の削減や人員配置の柔軟性といった点で、日本よりも厳しい制約が課されます。 以下に主要な相違点を示します。

項目 日本では可能な方法
(スモールスタート)
タイでの規制・要件
オフィス 自宅やコワーキングスペースを活用して固定費を抑制。 ペーパーカンパニーは認められません。
商業目的で利用可能な物件を法人契約で賃借する必要があります。自宅コンドミニアムでは無理です。
実体のある事業活動が義務付けられています。
人員体制 社員を1人社長として業務委託したり、派遣社員を活用して柔軟に調整。 外国人1名につきタイ人4名以上の雇用義務など、ビザ・ワークパーミット要件に基づいた雇用が必要です。
人件費が固定費として発生します。
資金調達 補助金・給付金・銀行融資を活用して資金を確保。 タイの銀行からの融資や行政補助金を、日本企業が設立した法人(特に設立初期)が利用するのは難しいのが現状です。
初期投資規模 少額資本金でも開始可能。 一般的に200万バーツ以上の資本金が求められます。
外国人の出資割合は98万バーツ(49%)まで、とは言え、日本での小規模起業よりも初期投資が大きくなります。

初期投資と運営上のハードル

タイで法人を設立し、継続的に事業を行うためには、商業用オフィスの確保、タイ人従業員の雇用、 そしてそれらを支える十分な初期資金が不可欠です。日本から駐在員を送り込む場合はその費用も多大です。 初期投資、と、単月利益が出るまでの手元資金を見積れば、結果として、日本よりも初期段階での事業規模が大きくなり、投資ハードルも高くなる点を理解しておく必要があります。

名義借り(ノミニー)黙認の時代から厳格化の時代へ

タイ政府は、外国人がタイ人の名義を借りて事業を行う「名義貸し(ノミニー)」行為について、 外国人事業法(Foreign Business Act=FBA)第36条および第37条に違反する重大な犯罪であり、 刑事罰や資産没収を含む厳しい処罰を科す方針を改めて強調しました。

タイは1980年代から2000年代にかけて、外国人投資を積極的に誘致し、急速な工業化を遂げました。 その過程で、実際には外国人が経営を支配していても、形式上はタイ人名義で登記する 「名義貸し(ノミニー)」が黙認(マイペンライ)されていた時期もありました。

しかし、024年にミャンマー国境地域やメーソート・チェンライ周辺で発覚した外国人による 詐欺・マネーロンダリング・サイバー犯罪の多発、そして2025年に発生した百年に一度とも 言われる大地震で倒壊した建物が実態は中国資本のノミニー企業であったことなどを受け、 これがタイ社会に深刻なイメージを広める結果となりました。

こうした事態を背景に、タイ政府は外国人事業法違反の撲滅に本格的に舵を切り、名義貸しを含む不正な外資スキームへの取り締まりを一段と強化しはじめています。「タイは、外資を歓迎しながらも、法令を無視した便宜的な事業運営を容認しない方向へ進んでいる」でと考えを改めるべきです。

裁判所は「実態」を重視

中でも最も多いのが「名義借り(ノミニー)」です。タイ国に取引先も人脈もない外国人企業や個人にとって、出資を依頼できる適格なパートナーを見つけることは容易ではありません。 そのため、法の趣旨からすれば違法でありながら、形式上は合法にも見えるスキームが長年慣行として行われてきました。

しかし、状況は大きく変化しています。報道によればプーケット県の判例では、裁判所が企業の実態を詳細に検証し、 登記上の名義がタイ人であっても、実質的な経営支配が外国人にある場合は「違法な名義貸し」と判断するという明確な司法判断が示されました。 これにより、形式的な登記ではなく実態を重視する姿勢が確立されています。

名義人をめぐるトラブルも多発

コロナ禍の頃、名義人となったタイ人が死亡し、相続人が株式の買い取りを要求したり、会社清算に発展するケースが多く報告されておりました。 形式的な契約書が存在しない(表に出せない)場合、名義人が「実質的な株主」であると主張すれば、外国人側は法的に反論する術を失うことになります。 さらに、問題化した場合、名義借りした外国人のみならず、名義提供者・名義あっせん者自身も「共犯者」として捜査対象となる可能性があり、関係者にとって重大なリスクを伴うことは十分に留意しておく必要があります。

タイ株と外国人事業法に関するよくある質問

タイ人なら発起人や株主に誰でもなれますか?
発起人の場合、個人銀行口座に資本分の預金があることを証明する書類を発行する必要があります。株主の場合はのちに株を売買した証拠(取引明細等)を求められることがあります。
タイで会社が自社株(自己株式)を持つことはできますか?
タイ民商法典第1143条により、会社が自社株を所有したり、担保に取ることは禁止されています。
但し、上場企業には例外規定があります。
優先株(หุ้นบุริมสิทธิ:Preference Shares)を使って外国人が実質的に会社を支配することは可能ですか?
タイローカルの持ち株部分である51%部分について、配当や議決権、残余財産の分配などに特別な優先権を持つ株式を発行することが可能です(新規発行時のみで、普通株からの変更は不可)。
主な優先株の例としては、
・議決権制限:1株あたりの議決権を制限(例:0.1票)
・配当優先:普通株より先に、または高率で配当を受け取る
があります。
注意点として、「すべての株式には議決権が必要」とされており、議決権ゼロの株式は発行できません。
理論上は可能ですが、外国事業法(FBA)では「実質的支配(Substantive Control)」と判断される場合があります。
法人設立後、株主であるタイ人パートナーの会社(持株会社)の株式の過半数を取得し、実質的に独資にすることは可能ですか?
株式の売買自体は法的に可能であるため理論上は可能です。
しかしこの行為によって、タイの会社(事業会社)が「外国事業法(FBA)」上の「外国人」とみなされる可能性が高くなります。
外国事業法(FBA)で制限されている業種は?
外国事業法では、外国人が従事できる事業を3つのリストに分類しています。
リスト1:外国人が一切できない事業(例:新聞出版、稲作、土地取引など)
リスト2:国家安全保障や文化に関係する事業(例:国内輸送、工芸品、木材加工など)
リスト3:外国人が従事するには免許が必要な事業(例:コンサル業、ITサービス、小売、広告、旅行代理店、不動産仲介など)。リスト3では、外資が過半数を超える企業が行う場合、商務省から「外国事業免許(Foreign Business Licence:FBL)」を取得する必要があります。

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